道しるべの一番星へ

星のない夜が訪れても こころ灯し約束しよう

2023年5月のシアタークリエに寄せて

13年。まだ未熟な自分にはとてつもなく長い時間のように思える。13年前の自分が何していたのかなんて、おぼろげな記憶しか存在しない。

3年前のことだって、数か月前のことだって、なんなら昨日やったことだって忘れてしまうな人間にとって、10年以上前のことは記憶が薄れてしまっても仕方のないことのように思う。十年一昔とはよく言ったものだ。

 

でも、そんな13年という長い時間を飛び越えて、舞台『She Loves Me』はこの5月に再びシアタークリエで時を刻んだ。

 

「いつか会えるあなたへ」

 

 

元日に公開された薮くんからのメッセージ動画で語られたこの言葉。この”あなた”には何通りの”あなた”がいたのだろう。

初演を見に行って再演をずっと待っていた”あなた”。
初演に行きたかったけど色んな事情で行けなかった”あなた”。
あとから薮くんを好きになって、シーラヴを知らない薮担の”あなた”。

きっと、たくさんの人のそれぞれの思いが詰まった再演だった。それを「いつか会えるあなた」と表現する薮くんのこういうところが好きだなあ、なんて思ったり。

 

かく言うわたしは数年前からのファンで、19歳の薮くんが演じたジョージをもちろん見ていない。
初めて薮くんが座長を務めた舞台。もちろん知識として存在は知っていたけれど、あえて『SHE LOVES ME』を調べることは避けていた。時を戻せはしないのにその世界を知りたくなって仕方がなくなることがわかっていたから。知らないことは悪じゃない。過去を知れない分、今の薮くんを精一杯受け取ろう、うん。なんて自分に言い聞かせて。

でも、薮くんはわたしの世界にシーラヴを連れてきてくれた。新春の挨拶に、春のとっておきの楽しみを連れて。

薮くんがくれたとっておきのプレゼントである『She Loves Me』を自分にとって特別なものに、悔いがないものにしたくて、今まで手を出せずにいたことに挑戦した。これという理由は本当になくて、なんとなく。後付けだけど薮くんが初めてジョージを演じたときと今ちょうど同い年だった。だからなんだという話ではあるけれどちょっと感慨深い。

 

初めて舞台の初日に入ったし、初めて同じ劇を何度も観劇した。

 

初日の緊張感を知った。いろんな角度の席に入った。前の席が絶対的に良いということはなくて、ここの流れは後ろの方じゃないとわかりにくいんだな、必ずしも近いということがいいわけではないみたい。それぞれの日の温度感があって、全く同じものではなく少しずつ変えながら毎日届けられているのだと感じた。アルパちゃん店員昇格の拍手へのアドリブを聞けた5月15日のマチネ公演は自分の中で特別だ。

 

こんなことは、ちゃんとした(?)ファンからしたら至極当たり前のことなのかもしれない。なんならわたしが入った公演数なんて多分同じ薮担の中だったらとても少ない方だと思うし、他の人に誇れるような席で見られたわけでもない。でも、わたしにとっては新鮮な体験ばかりで、一公演一公演重ねるごとに『She Loves Me』の世界のひとつひとつが一層大好きになった。薮くんはもちろん、舞台上に一緒に作り上げている演者さんやスタッフさんのことが浮かんで、毎公演カテコは手が痛くなるくらい拍手をした。

 

 

 

 

 

わたしは33歳の薮くんが演じたジョージを、2023年の『She Loves Me』の世界を知ることができた。一方、それは決して19歳の薮くんのジョージと、2009年の『SHE LOVES ME』を知ったことにはならない。

でもそれをわたしは寂しいとはもう思わない。だって、19歳のときに演じたジョージに薮宏太としての13年の人生を重ねた、今の”ジョージ”を見て感じることができたのだから。きっと、2023年に薮くんが演じたジョージには、2009年の頃から13年の経験を重ねて変わったものと、ずっと変わっていないものの全部が詰まっていた。それが何なのか、もちろん完全に理解することはできないけれど。19歳のジョージ+13年の人生を詰め込んだ薮くんのジョージを今の自分が受け取ることができただけで、もう十分だと思えてしまえるのだ。
それは、薮くん含め全関係者の方が最高の『She Loves Me』の世界を作り上げてくれたからでもあって。あんなに素敵な舞台に、薮くんのおかげで巡り合えたこと自体がとびきりの奇跡だとも思う。

 

 

5月のシアタークリエを自分の中で”特別”にすることができました。マラチェック香水店の日常にお邪魔することができないのはちょっぴり寂しいけど、また会える日がくると信じて待っています。

 

ありがとう、シアタークリエ。ありがとう、5月の日比谷。また来るご縁があれば、その時はまた。